長く勤めてくれているスタッフが医院の変化を止めている時。
院長お悩み相談室から・・
父の代から勤めている衛生士がいます。父はもう退職しています。
医院のことは、私よりもよく知っているくらいで、決して悪い人ではありません。
新しい取り組みについても、理解はしてくれています。
でも……行動が伴わない。そして、どうも他のスタッフも、その人の動きを気にしながら仕事をしているようなのです。
もちろん、辞める気配もありません。こういう場合、どうしたらうまくいくのでしょうか?」
これは、決して珍しい話ではありません。
むしろ、長く続いている医院ほど起こりやすい問題かもしれません。
長年の経験や医院の歴史を知っていることは、大きな財産です。
ただし、
「長くいること」と「これからの医院を支えること」は、同じではありません。
ここを院長が整理する必要があります。
「昔の医院」と「今の医院」は違う
お父様の時代と、今の医院。
同じ建物、同じスタッフ、同じ患者さんがいても、医院を取り巻く環境も、院長の考え方も、これから目指す方向も違うはずです。
「今までこうだったから」
「お父さんの時はこうしていた」
「昔はこれでうまくいっていた」
というものを、そのまま現在に持ち込む必要はありません。
大切なのは、過去を否定することではなく、
「これまで医院を支えてくれたことへの感謝」と「これからの医院に必要な役割」を分けて考えること。
では、何をしてみるか。
いきなり「変わってください」と言っても、人はなかなか変わりません。
まずは、院長の考えていることを伝え、役割を明確にしていきます。
① 一緒に食事に行く
できれば、お父様も一緒に。
「長い間、医院を支えてくれてありがとう」
という気持ちを伝える時間です。ただし、昔話だけで終わらせないこと。
「これからの医院をどうしていきたいのか」「これからも一緒にやっていきたい」
という、未来の話をすることが大切です。
② 新しい医院のコンセプトを渡す
医院がこれから目指す方向を、言葉にして渡します。「院長が頭の中で考えている」だけでは伝わりません。見える化しましょう。
「これが、これからの医院です」と伝える。
③ 新しいお願いは「指示」にする
「できたらお願いします」「協力してもらえると助かります」
という曖昧なお願いではなく、
医院として必要なことは、医院のルール・指示として明確にする。
できるだけ書面に残します。
④守れなかった場合も決めておく
「書面にしたから終わり」ではありません。
何のために決めたのか。誰が、いつまでに、何をするのか。できなかった場合はどうするのか。そこまで明確にしておくことです。
※給与や雇用条件の変更などは、就業規則や雇用契約、労働法上の問題が関わりますので、実施する場合は社労士など専門家に確認しておきましょう。
⑤ 新しい役割を担えるのかを確認する
長く勤めているからといって、必ずしも「これからのリーダー」になれるとは限りません。
これまでの貢献と、これから期待する役割は別です。
もし新たなリーダーとしての役割をお願いするのであれば、「何を期待しているのか」
「どこまでできるようになってほしいのか」を明確にして、一定期間を設けて確認する方法もあります。
⑥ 約束が守れない場合のルールも決めておく
「約束を守れなかったらどうするか」ここも、最初に明確にしておく。
後から院長が感情的になってしまうと、話がこじれます。だからこそ、先にルールを決めておくのです。
⑦ 毎月の面談を欠かさない
一度話したから大丈夫、ではありません。特に長く勤めているスタッフの場合、
「分かっていると思っていた」「伝わっていると思っていた」が一番危険です。
毎月、短時間でもいい。「今どうですか?」「困っていることは?」
「お願いしたことはどうですか?」と確認する。
⑧ 権限を渡す
長く勤めている人には、経験を活かせる役割を渡すことも必要です。
例えば、いただきものを受け取る、後輩の相談に乗るなど、
「あなたを信頼して、この役割を任せています」という明確な権限です。
ただし、権限を渡すことと、医院を動かす権限を無制限に与えることは別です。
⑨ 「周囲からどう見えているか」を伝える
ここは非常に難しいところです。「他のスタッフから聞いていますよ」
と、誰が何を言ったのかを暴露する必要はありません。
でも、「あなたの行動は、周りのスタッフも見ています」ということは、伝えていい。
本人が気づいていない影響を、院長が伝えることも仕事です。
⑩ 「あなたは大切な存在です」を態度で示す
これは、意外と大切です。人は、「自分は必要とされている」
と感じると、責任の持ち方が変わることがあります。長く勤めてくれたことへの敬意は、きちんと表す。そのうえで、
「だからこそ、これからはあなたにも変わってほしい」と伝える。
ここはセットです。
院長が、もごもごしてはいけない
こういう問題で一番困るのは、「言いたいことはあるけれど、長く勤めてくれているから言えない」という状態です。
院長が遠慮する。本人も変わらない。他のスタッフも、その人の顔色を見る。
そして、いつの間にか医院全体が動かなくなる。これが一番怖いのです。
「協力してください」が通じなかったら?
ここは、院長自身が覚悟を持つ必要があります。
何度伝えても変わらない。約束をしても守られない。
新しい医院づくりに協力する気持ちが、どうしても行動に表れない。
その場合には、「このまま一緒にやっていくことが、本当に医院にとって良いのか」
を考えなければなりません。最終的には、退職という選択肢が出てくることもあります。
これは「辞めさせればいい」という話ではありません。
むしろ、
そこまで考える覚悟がなければ、院長は本気で組織を変えられない
ということです。
院長が諦めたとき、困るのは誰でしょう?
実は、その本人だけではありません。院長が、
「もういいや」と諦めてしまう。できるだけ関わらないようにする。見て見ぬふりをする。
すると、一番困るのは他のスタッフです。
表立った問題にはならなくても、「あの人がそうするなら、私も……」「院長も何も言わないし……」という空気が、少しずつ広がっていきます。
そして、その影響は新人にも及びます。
過去の医院の話を何度も聞かされる。
「昔はこうだった」「前の院長のときはこうだった」「そんなことしなくても大丈夫」
そんな言葉が、知らないうちに新人の中にも入っていく。
目に見えない圧力は、意外と強いものです。
その人の存在や行動が、組織全体にどんな影響を与えているのか。
そして、
院長がその影響を正しく見極められているか。
だと思います。
人を切ることが院長の仕事なのではありません。
人を活かすことも、育てることも、役割を変えることも、そして時には、組織を守るために決断することも、院長の仕事です。長く勤めてくれた人への「恩」と、
これからの医院に対する「責任」。
この二つを混同しないこと。
医院の世代交代で、一番難しいのは、
「人を変えること」ではなく、院長自身が「昔の医院」から一歩前に進むことなのかもしれません。

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